ネット世論三国志

僕たちは議会制民主主義の世界に暮らしており、直接民主制はさすがにやばいよねということは分かっている。


ところがSNS界隈は東日本大震災あたりを境に強力に影響力を増していて、「いいね数」などで定量的な評価が可能であることもあいまって色々なことを決断し始めている。


広告記事はタイトルにPRといれるべきだ
yoppymodel.hatenablog.com
女性蔑視の広告は使うべきではない
news.nifty.com
学校にエアコンを設置するべきだ
togetter.com


これらはごく一例。もちろんこれらに法的強制力はないのだが、だからといってこの取り決めに従わないと炎上というなかなか強烈な私刑が加えられるため、ある程度の強制力は発生している。もちろんSNS上で決まった方向性が100%正しくてみんなが幸せになるのであるならばそれでいいと思うのだが、直接民主制と同じくポピュリズムの問題は当然はらんでいる。それどころか、SNS上での議論は日本全国民の中でも偏ったクラスタ(=オタク)の人達の声が大きいため、民意を反映するという意味では深刻な問題がある。


SNS上ではアンチオリンピックが常識のようになっているが、NHK世論調査では85%の人がオリンピックに肯定的であるし、ネット上ではそんなもん誰がやんだよと言われてたボランティアもたくさん集まった。

2018年10月東京オリンピックパラリンピックに関する世論調査 - NHK
http://www.nhk.or.jp/bunken/research/yoron/pdf/20181221_1.pdf
www.fnn.jp


オリンピックの是非はともかくとして、ネット上で常識のように見える意見でもそれはけっきょく一部のクラスタの人達の意見でしかないのであって、このように社会全体の民意とはズレがある。にも関わらず、ネット上での取り決めを炎上という手法でもって強制していくスタイルには明らかに問題がある。



以上が前提の話である。


これに対しての僕の考えは「SNS上で自由な意見の発信はするべきだが、それによって何かを決断するべきではない」である。とはいえ、多数派になってしまうと社会をコントロールしたくなってしまうものである。炎上という現象に反対する場合、社会をコントロールしようとする態度そのものを問題にすることが多いけど、色々見てきてなかなかそれを止めさせるのは難しそうだなと思うようになった。強者が自制するのは難しい。


そこで反炎上で考えられるもう1つの方針として、1つの勢力がネット世論を統一してしまうのを防げればよいという考え方がある。つまり1つの勢力の意見が大きすぎる炎上状態ではなく、異なる意見も存在する喧嘩状態を作り出すという狙いである。この発想は諸葛亮孔明の天下三分の計と同じである。強大すぎる魏の勢力に対抗するため、魏を滅ぼす方法を取るのではなくて、全体を3勢力に分割することによって、魏が呉を攻撃すれば蜀が魏の隙をついて攻め込むという相互監視状態をつくり、魏の動きを封じ込めるのだ。


さて丁度いいことに、東浩紀さんによると日本社会には3つの勢力がある。それは

  • オタク
  • ヤンキー
  • インテリ

である。


今のネット空間はオタク帝国になろうとしている。あらゆるトラブルを回避して「終わらない日常」を求める人たちだ。もちろんそれ自体正しい面もあるけど、しかし全体がそれだけになってしまっては問題がある。当然のことながら「終わらない日常」なんてものはなくそれはいつか崩壊するので、トラブルを起こしてでも日常を少しずつアップデートいく必要もある。そこでトラブルを起こす勢力がヤンキーである。もちろんSNS上にもヤンキーは存在しているが、オタクは社会規範の力を使うのでSNSでのテキストでのやり取りではヤンキーは現状かなり分が悪い。


今ネット上でかなり分が悪いことになってるヤンキーといえばはあちゅうが思い浮かぶ。

togetter.com


はあちゅうの良し悪しはおいといて、ネット上でこれは悪に違いないと決めつけて一方的な誹謗中傷を行っている状況には問題がある。はあちゅうの支持者は一定数いるし、何が正しいのかなんて最終的な結果が出なければ確定しない。だがその段階からSNS上ではオタク達による誹謗中傷が始まってしまい、いまのところはあちゅう側はこれに対して有効な反撃手段を持っていない。


これが今の状況だが、パワーバランスを調整して一方的な炎上ではなく、殴ったら殴り返される喧嘩の状態にしていく必要がある。そこで第3勢力としてバランス調整のカギを握るのがインテリだ。


インテリは言論が仕事なので原理上多数派にコミット出来ないのである。なぜならば多数派は今以上のロジックを必要としていないし、ロジックを与えたところで何も変わらないからだ。オタク系インテリとヤンキー系インテリがいるならば、オタク系インテリは多数派であるオタクに対してのコミットをやめてアカデミックに専念するようになる。一方でヤンキー系インテリには困窮しているヤンキー達に逆転のロジックを与える仕事がある。


このようにインテリという勢力は「アカデミック+多数派に対する逆張り」という方向に動くため、バランスを調整することができる。


逆に言うと、今はSNS上ではインテリがうまく機能していないから炎上が巻き起こっているとみることが出来る。これにはいくつかの理由があると思うが、1つはもともとオタク系インテリがたくさんいたので、オタク帝国になった結果彼らが軒並みいなくなってしまったというのがある。10年前はこの社会はまだヤンキー帝国だったので、オタク系インテリが活躍していたのだ。だからもともとヤンキー系インテリが不足していて、その不在をついて一気にオタク帝国が構築されてしまい反オタク発信をすると即炎上のような状況になってしまったため、SNSを見限ってNewPicksやメルマガとかに引きこもってしまったのだ。


今のこの炎上天国をなんとかするためにはインテリ達をSNSに引き戻し活発に発信してもらう必要がある。いまヤンキー系インテリで一番目立っているのは宇野常弘さんだろう。宇野さんみたいな人がもっとたくさん現れる必要があって、これから徐々に増えていくのではないかと思っている。


いまのような一方的なリンチではなく、殴り合いの喧嘩の絶えないSNSを待ち望んでいる。そのためにインテリのみなさんにはもう一度SNSへ戻ってきてほしい。いま社会を動かしてるのはNewPicksではなくてSNSなのだ。