ニコニコ動画とボカロ曲のラウドネス問題

今年に入ってニコニコ動画ラウドネスが実装された。

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今週になってスマホアプリでもラウドネスが実装され、ラウドネス対応は完了したようだ。(スマホWebは未確認。)

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ラウドネス機能というのは、再生プレイヤーが音量を自動で調整する機能のこと。Youtubeは何年も前に実装済みで、音楽配信Spotifyなどもラウドネスが実装されている。この機能があることによって、動画ごとでまちまちになっている音量が自動調整されるため、視聴者がいちいちボリュームを調整する負担が減り快適な視聴を行うことが出来る。


なのだが、再生プレイヤーが勝手に音量を操作してしまうというのはデメリットにもなる。ニコニコ動画の場合はこのデメリットをボカロ曲が被りそうだ。


長年ニコニコ動画にはラウドネスはなかったので、ボカロ曲の投稿者は音量に関してはCD品質でアップロードしていた。ニコニコ動画に投稿されているボカロ曲はCDで聴くのと同じ音の大きさに聴こえるように音量が調整されている。この調整する作業のことをマスタリングという。


ここで厄介になるのが、人が感じる音の大きさと、曲データ上の音の大きさとは必ずしも一致していないことである。

  • 10デシベルの音量で、ボーカルの歌だけが再生されるデータ
  • 10デシベルの音量で、ボーカルギターベースドラムのバンドサウンドが再生されるデータ


例えばこのようなケースだと、同じ10デシベルでも前者の方が音が大きく聴こえる。前者は歌だけが10デシベルで鳴っているのに対し、後者は4パートが鳴っているので、歌自体の音量はたとえば10デシベルのうちの2デシベルとか3デシベルとかになる。そうすると歌の音量感が半分以下になるので、後者の方が音が小さいと感じるのだ。


マスタリングという工程では、このような「人が感じる音の大きさ」という曖昧なパラメータを調整する。ニコニコ動画にアップロードされているボカロ曲は、CDと同じ大きさに聴こえるようにマスタリングされている。つまり、どの曲を聴いても再生プレイヤーの音量が一定であればだいたい同じ大きさに聴こえるようになっていたのだ。


しかしラウドネスという機能は再生プレイヤーの音量を動画ごとに自動で変えてしまう。この時、ラウドネスの基準となる音量値と、人が感じる音量感とが、まだまだ一致していないところに問題がある。ボカロ曲はマスタリングという工程でもともと音量感が揃えられているにも関わらず、ラウドネスはその独自の基準で動画ごとに再生プレイヤーの音量を変えてしまうのだ。


ラウドネスが有効になっている場合、歌や楽器のパート数が少なく静かめの曲調のボカロ曲の音量がやけに大きく再生されてしまうということになるかもしれない。逆にPerfumeみたいに常に大きな音量で鳴っているような曲はやけに小さく再生される。これはボカロ曲を連続再生している場合などにはかなり不快な事態である。


この問題を回避するために、ニコニコ動画の再生プレイヤーでは視聴者がラウドネスを無効にすることが出来る。無効にすれば、これまでと同様にボカロ曲を聴くことが出来る。しかしこの場合、ラウドネスを有効にしている視聴者と無効にしている視聴者という2パターンの視聴者が生まれてしまう。


今後ラウドネスが有効となっているのが前提であれば、ボカロPたちはラウドネスがかかった時に一番良く聴こえるようにマスタリングをするので、この先アップロードされていくボカロ曲の音量感は安定してくだろう。ところがラウドネスは無効にすることができ、しかも上記のような理由から、ボカロリスナーにはラウドネスを無効にするインセンティブが働いていると考えられる。


このため、これまで通りCD基準でマスタリングした音源と、ラウドネス基準でマスタリングした音源と、どちらにするのかボカロPによってマチマチな状態でボカロ曲が投稿されていくと考えられる。(悪いことに、両者は仕上がりの音量が大きく違う)


最も悪い予測は、ラウドネスの存在に気付かないボカロリスナーが、ラウドネスにより不安定な音量になったボカロ曲を視聴して、ボカロ曲の音質悪くなったと感じることである。


みんなどうするんだろうか。僕は面白そうだからラウドネス前提でやっていこうかなあとも思うけど、さてはて。