ハリルホジッチの解任は不可解とは言い切れない、という話

サッカー日本代表のハリル監督が解任されてあることないこと憶測が飛び交って大騒ぎになってます。
そもそもメキシコサッカーを指向している日本サッカー界がなんで極端に真逆の戦術をとるハリルを招聘してしまったのか。この問題はここに尽きるし、監督選考については大きな問題があったと思います。


それはそれとして、ハリルの解任理由が不可解でありスポンサーに忖度して解任したのではないかというような噂が広がり、人は信じたいものを信じるものですから多くの人がこの説に乗っかり、「スポンサーの圧力に屈して今まで頑張ってくれたハリルを解任した」という言説での協会批判が湧き上がっています。

実際にスポンサーの圧力がどうだったのかは知る由もありませんが、それほどハリルの解任は不可解なものだったのでしょうか。


僕はハリルの試合内容はかなりひどく、また従来日本サッカーが目指していたものとも大きく剥離したものだったのは事実だと思っているので、選手間や協会内部に試合内容の観点から不満がでたり、純粋にサッカーの内容の評価の結果として解任となっても全然おかしくなかったかと思います。



日本サッカーがそれまでやってきたこととハリルのサッカーを比較する時に、ポゼッションサッカーと縦に速いサッカーという形で対比されます。縦に速いサッカーを指向したハリルですが、今回の解任騒動に当たってはポゼッションサッカーをやりたい協会が「縦に速いサッカー」をやるハリルが嫌で解任した、と言う人が多くいます。それで「時代は縦に速いサッカーが主流だ」「協会の好きなサッカーじゃないと解任するのか」といった批判に繋がっています。


しかしこの批判は誤りです。ハリルの戦術は縦に速いモダンなサッカーという観点から見ても全然ダメなのです。

ハリルサッカーの問題は以下の記事がよくまとまってい、僕としては同意見です。
pal-9999.hatenablog.com



僕の考えを簡単にまとめます。

サッカーにおいての攻撃は大きく2つのパターンに分けられます。それは速攻と遅攻です。速攻とは「相手の守備陣形が整う前にシュートを打つ」攻撃であり、遅行とは「守備陣形が整った相手の守備を自力で崩してシュートを打つ」攻撃です。


そして一般的に「縦に速いサッカー」というのは速攻局面での攻撃の話題になります。相手からボールを奪った瞬間、無駄にボールをキープしないで、相手がフォーメーションを整える前にボールを前に運んで相手ゴールを攻略します。この攻撃方法は今では主流な得点パターンであり、チームがポゼッションスタイルかどうとかはほとんど関係なくメキシコやスペインでも採用されています。従って日本代表がこの攻撃を採用するのは当然の流れであり、「ハリルの縦に速いサッカーが日本に合わなかった」というのは少しずれている議論なのです。


ハリルサッカーの問題は遅攻に集約されています。どんなに縦に速いサッカーを指向しても、実戦の中ではボールを奪った瞬間に相手がパスコースを切ってきたり、奪った後にファールやスローインなどでリスタートして遅攻に移行する場面の方が多いのです。先に紹介した記事に記載のある通り、ハリルは遅攻の時でもDFから前線へロングボールを蹴り込むというスタイルを確立しようとしていました。しかし、遅攻というのは相手の守備陣形が整っている状態で攻撃するということなので、このロングボールが成功することはほぼありません。


つまりハリルの遅攻プランは、最終ラインからロングボールを前線に蹴り込み当然相手に防がれるが、そこで相手に渡したボールに対してディフェンスを開始し、そこでボールを奪えた場合には運が良ければ相手の守備が崩れた速攻局面になっていることがある、というものなのです。


そして、能動的な攻撃は一切仕掛けないというこのハリルの遅攻プランは「モダンな縦に速いサッカー」ではありません。縦に速い現代のサッカーにおいても、遅攻の際にはある程度能動的に相手の守備陣形を攻略しなければ得点は奪えないのです。


実際、ハリルもアジア最終予選では遅行の際にはMFでのショートパスでの攻略を容認していました。個人的にハリルジャパンのベストゲームは最終予選アウェーのUAE戦だと思っていて、この試合では香川と今野のセンターハーフが攻撃の中心になり相手DFをてんてこまいに攻略して、大一番での勝利につなげました。



おそらく協会(そして選手)が問題にしているのは、最終予選後に行われた強化試合です。
これらの試合から、ハリルは遅攻でも中盤を完全に省略してDFからFWへロングボールを蹴れという指示を強めていき、3月のベルギー遠征では最終ラインがロングボールを最前線に蹴り出すか、がっちりマークされているウイングが下がってボールを受けて潰されるかの2択のような状態になり、遅行の時にボランチが攻撃に絡んだケースはほとんど皆無でした。当時の報道によると、前線の選手が下がってボールを受けようとすると怒られるという状態のようでした。

おそらく、ワールドカップ本番での強豪国との試合を見据えて、カウンターリスクのある遅攻は完全に捨てて速攻だけで攻撃しようという意図があったと思います。

しかし選手からもコメントが湧き上がっていたように、相手のレベルが上がると相手からボールを奪うことも難しくなるので、遅攻は遅攻として能動的に相手を攻略する手段を用意しておくべきなのです。



そんなわけで解任騒動について話を戻しますと。

遅攻の際にロングボール一辺倒という異常な状況がこの半年間続いていて、結果としても内容としても全くうまくいっていなかったわけですから、日本サッカー協会が容認出来なくなって解任に至ったとしてもそれはそれで筋は通ってるんじゃないかなと思います。スポンサーからの圧力がなくてもね。

また、この解任騒動で日本サッカーが10年退行したという話もよく見かけますが、ハリルがおそらく本番で採用しようとしていたであろうロングボール一辺倒の遅攻こそ、数十年退行したサッカーそのものなのではないでしょうか。