【感想】旦那観察日記 / はあちゅう

はあちゅうの旦那観察日記を読んだ。

旦那観察日記?AV男優との新婚生活?

旦那観察日記?AV男優との新婚生活?


インスタやブログでも公開されてるもののまとめなのでちょこちょこ読んでいたし、過去のものも漁れば無料で読めるのだが、編集されてる方が読みやすいかなと思って購入した。結果としては買ってよかった。特になれそめ編のあたりはこれで初めて読んだのだけど、はあちゅう人間性が出ていてよかった。


はあちゅう本人が手掛けているらしいイラストがかわいいし、はあちゅうとしみけんの何気ない日常の様子は読んでいて非情にほっこりする。元々しみけんはネット上でも人気だったけど、こうやって見てみるとやっぱり面白い人だ。



この本自体はふんわりした内容なのだけれど、偏見に晒されることが多い職業AV男優の男性との出会いから結婚までの記述ということで、ダイバーシティについての本として読むことが出来る。ダイバーシティSNSの1つのモードだから、大事だという意見が色々とネット上にはあるのだけれど、じゃあ実際に個人的な関係になるってどういうことなのかっていう話は少ない。この本はそういう個人的なものを面白く読めるコンテンツに仕上げていて、このあたりは個人的な事を発信し続けてきたはあちゅうの才能だと思う。


ダイバーシティってマクロなものとミクロなものが全く別物としてあると思う。マクロなダイバーシティ(社会規範としてのダイバーシティ)については、利害関係の外から頭で考えて発信出来るから、大事だよねという意見はネット上にも多い。しかしミクロなダイバーシティ、個人的な関係としてのダイバーシティは全く別の回路が必要になる。


ミクロなダイバーシティを実践するために重要なのは、偶然性に対してオープンになっていることだと思う。東浩紀さん的に言えば誤配の可能性を開いているということだ。得体の知れないAV男優の男性と偶然出会って、なんとなく友達になって、いつの間にか恋愛になってる。はあちゅうはこれをやったわけだけど、多くの人、特にオタク的な人は最初のところで防御してしまうと思う。得体の知れないものと偶然出会った時に距離を取る、あるいはそもそもあらかじめ偶然の可能性を消しておく、っていうのは傷つかないためには賢い方法だと思う。AV男優と会いに行って友達になってなんとなく付き合っちゃうとかっていうのは、軽率で無鉄砲だと今のネット上では批判されるだろう。しかしその軽率さや無鉄砲さがもたらす偶然の出会いというのが実は重要なんだというのは、東浩紀さんの話だ。


多様性について最近思うことがある。インターネットは、特にニコニコ動画が出てきたあたりから多様性という言葉と共に歩んできたと思う。あの頃、オタクというのはそれこそAV男優と同じように社会から阻害されるニッチな存在だった。だからネット上での「俺たちの存在を認めろ」という運動はたしかにそのまま多様性に繋がっていたし、それに伴って別の価値観を攻撃することにも反抗という意味があった。


しかし10年経って状況はずいぶん変わった。オタク的な趣味が広く認められて山手線にアニメのキャラクターがプリントされるような時代になったし、それだけではなく、テック系産業の台頭によりプログラミング教育なども始まり、昔に比べれば遥かにオタクが社会的に成功しやすくなっている。


にも関わらず、ネット上では相変わらず「俺たちの存在を認めろ」を続けていて、別の価値観を攻撃し続けている。これではヤンキーがオタクを迫害してきたのと何も変わらない、ただ頭が入れ替わっただけの多様性とは程遠い状況になってしまう。


もちろんはあちゅうを見習えとは言わないが、別の価値観と偶然出会った時にそれを拒絶しない、あるいは別の価値観と出会う可能性を開いている、そういうことが大事なんじゃないかなと、旦那観察日記を読んで思った。


少なくとも僕は、誤配が起こる環境にしていきたい。