【感想】群集心理 / ギュスターヴ・ル・ボン, 桜井 成夫

群集心理をコミカライズしたものがあったので読んでみた。

群衆心理 (まんが学術文庫)

群衆心理 (まんが学術文庫)


19世紀末の心理学者のルボンさんの「群集心理」が元になっている漫画で、この本はインターネット以降の現代社会において基礎教養としてもいい内容だと思う。それに漫画なのであっという間に読める。


「群衆」といわれると自分とは関係ないものと考えがちだが、この本では人間の一般的な性質として群集心理を扱っている。人には特定の刺激を受けると特定の反応をするという一般的な心理のパターンがあり、これを外部からハッキングされると群衆に陥る。らしい。


著者はフランス革命以降の民主化していく社会を「群衆の時代」と評する。今日では、絶対君主制は不自由な社会で、民主主義社会が自由な社会であるという認識が一般的だが、はたして本当にそうなのだろうか?民主主義では国民に主権があるという。個々の人格が尊重されるという。まあ実際、統治者を国民の中から投票によって選ぶのだからそうなのだろう。しかし、その内実を考えてみる。


民主主義での統治者は国民の多数決によって選ばれる。その場合、統治者候補としては多数決を制することが目標になる。そのために多くの人に賛同してもらうための論理や手法を作る。より優れた手法を実践できたものが多数決で勝利し統治者になる。


この視点から見れば、民主主義とは、統治者候補が国民の心理をより上手に操るゲームを日夜繰り広げている社会とみることが出来る。あるいは資本主義にも同様のことが言える。資本家はより多くの資本を集めるために国民の心理を操る。国民は皆このゲームに否応無しに巻き込まれる。


さらに現代ではSNSの時代になってこの状況は加速している。得票数や資産の大きさといった従来の(少し日常生活とは離れた)数値に加えて、閲覧数やフォロワー数やいいね数など、様々な数値が日常の内側に浸透した。これらの数値を増やすためには、他人に見てもらい、いいねを押してもらう必要があるので、他人の心理を操らなければならない。この種のゲームは、もはやいたるところに存在するようになった。


現代社会では、我々は我々の心理をハッキングしようという強い力に常に晒されている。そして、残念ながらこれに対して十分に抵抗するのは難しい。絶対君主制の時代に比べて、現代は本当に自由になったのだろうか。現代とは、個人の人格がハッキングされ、常に他の誰かに操られている時代(=群衆の時代)なのではないだろうか。


まあ、そんなに深刻に考える話でもないとは思うが、そういう話もあるよねということをなんとなく知っているとまた違ってくるのだろうと思う。ということでおすすめな本でした。漫画なのであっという間に読めるし。